宇宙飛行士選択におけるPCMの歴史
コーネル大学 スコット・W・スペンサー
プロセス・コミュニケーション・モデルの適用――宇宙飛行士選択における過程
宇宙飛行士を選ぶ過程は決して生易しいものではありません。宇宙飛行士を選ぶ仕事を任された者は、肉体的にも精神的にも最良の人の中からさらに選りすぐって選出せねばなりません。身体上の検査や経歴の他にも宇宙飛行士を選ぶに至る要素を査定する材料は多々あります。
その中の一つがNASAで厳しいストレスや重圧のかかる状況下でどの宇宙飛行士が精神的に最も強く有能であるかを見抜くために使われているPCMと呼ばれるものです。
PCM、プロセスコミュニケーション・モデルは1972年にアメリカのテービー・ケーラー博士により開発されました。博士は先ず人のパーソナリティを6つに大別し、どのパーソナリティタイプにも長所短所があり優劣は無いとしました。しかしながら、宇宙飛行士を中心にしたNASAのみを対象にした場合、一般の人々を対象にした時よりも特にあるパーソナリティタイプが占める割合が他のパーソナリティタイプよりも遥かに高いことがデータによって示されています。
PCMのモデルが形成される過程は大変複雑で細かなものでしたが、出来上がった結果は比較的理解し易い、明解なものです。
どの人にも、それぞれに長所を持った6つ全てのパーソナリティタイプが備わっています。そのモデルはコンドミニアムとして描かれ、そこではその人のベースとなるパーソナリティタイプは1階にあり、その人の中で最も強く最も近付き易い(発揮され易い)ものとして描かれます。反対にその人の中で最も弱く近付きにくい(発揮されにくい)パーソナリティタイプは6階に描かれます。
以下は6つのパーソナリティタイプを最も簡単な形でまとめた概要です。ただし、ここではその人が持っている残り5つのパーソナリティタイプがベースのタイプに及ぼす影響を考慮に入れていないということに注意して下さい。
- レベル:宇宙飛行士サリー・ライドはレベルのフェーズであったといわれています。レベルは北アメリカ人口の約20%を占めていますが、宇宙飛行士を中心とするNASAでは稀な存在です。
- リアクター:宇宙飛行士の中では数のうえかで三番目にしかみられないパーソナリティタイプですが、最も有効なタイプのひとつであることがわかっています。
- ワーカホリック:NASAでの割合はおよそ22%です。
- プロモーター:このパーソナリティタイプは宇宙飛行士としては最も危険なものです。面白いことに宇宙飛行士を選択する側の主要人物であるパトリシア・サンティはNASAでの在職期間中プロモーターのフェーズでした。
- ドリーマー:NASAにはこのタイプは存在しません。
- パシスター:NASAでは最も重要なパーソナリティタイプです。
社会においてある役割を担うのに、あるパーソナリティタイプの人の方が別のパーソナリティタイプの人よりも適しているということに気付くことは意義深いことです。例えば、「パシスター」タイプは他の残りのタイプよりも会社の最高責任者(CEO=Chief Executive Officer)や上層部になるチャンスが遥かに多いということが証明されています。これと同じパターンが宇宙飛行士のプログラムに当てはまっているということは極めて興味深い事実です。
最も有名な宇宙飛行士としてはおそらくジョン・グレンが挙げられるでしょう。彼のパーソナリティ・プロファイルは宇宙飛行士の極めて典型的なもので、リアクターを多く備えたパシスター・ベースのワーカホリック・フェーズです。マクガイヤ博士はグレンについて彼の熱狂ぶり、関心、興奮の程度などは並外れていると語っています。パシスターから生じるグレンの強い信念は初期の宇宙飛行計画において明白なものでした。博士はグレンが他の宇宙飛行士たちに如何にして、自分に向けられる注目に(特に媚を売る女性に)屈しないようにして説得したかを細かく述べています。グレンは宇宙飛行士が米国を代表する任務のモデルの一つであることを真に理解していたので、そのイメージを清潔に保つことにも大変注意を払っていました。
また、博士はグレンをMr.クールと評し、当時を振り返って次のように述べています。「宇宙での飛行中に異常を知らせる恐ろしい赤ランプが点いた時も、グレンが如何に冷静に落ち着いて問題を解決していたのかが無線を聞いて分かった。」
しかし、グレンは宇宙にいる時や報道陣の前では任務一筋の人でしたが、自分のリアクターの面もまた同じぐらい表すことを決して恐れませんでした。博士は「何か悲しいことが友人に起こったりするとグレンは大声で泣いた」と回想しています。さらに彼は偉大な父でもあり夫でもありました。
このようにジョン・グレンは宇宙飛行士の鑑であり、自分の見解を周囲に説いて聞かせようとする一方で一所懸命に仕事をこなし個人的な成功を達成する、というパシスターの理想的な例でした。
しかしながら今や形成は変化しています。21世紀には、NASAでは圧倒的だったパシスターの宇宙飛行士の割合がこれまでほどは大きくなくなりそうです。テリー・マクガイヤ博士はNASAに宛てた文書で、将来を考えてNASAに二つの宇宙飛行士グループを置き、一つは宇宙ステーション用に、一つはスペースシャトル用に、ということを提案しました。博士は「宇宙ステーションの宇宙飛行士はリアクターベースであるか、少なくとも数回はフェーズを経験している必要がある」と考えているのです。このことにより宇宙飛行士が長期間快適に近接して暮らすことが出来ます。
とは言え、このことがほとんど半世紀の間パシスターがNASAを支配してきたという事実を曲げることはありません。1958年の宇宙飛行の始まり以来NASAでは非常に強靭な体と驚くべき健全な精神力を備えた全人的な意味で宇宙飛行士を採用するよう努めてきました。NASAでは仕事を果たすのに最高の精神力を持った人がパシスターの傾向があることを何度も感じてきました。
プロセス・コミュニケーション・モデル(PCM)はNASAにとってこの上なく貴重な道具です。何故なら、NASAに必要な特徴を持つ人――パシスター――を正確に見つけ出すことが可能になるからです。
PCMはNASAを今日あるような生産的で堅実で実りのある組織とするための手助けとなった多くの要因の一つなのです。
2000年12月
PCMの効用は広く認められ、NASAでの宇宙飛行士の適性を調べるのに用いられるようになりました。皆さんがよくご存知の宇宙飛行士、毛利衛さんもこのPCMの分析によって博士に指導を受けた一人です。
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